けんちく工房邑は茨城県つくば市を拠点に、板倉工法や民家再生をとおして、自然素材による住まいを設計から施工まで請け負う、無垢の木の家をつくる地域ビルダーです。

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コラム

悠久の時を経てきた民家をなんとか残したい

Tsushima

「家というものを強く意識したのは5歳のときでした。日本が先の戦争で負けたあと、しばらく大阪で仮住まいをしていたのですが、拾ってきたトタンを組み立ててつくった家なので、冬は寒くて夏暑い。梅雨時は雨漏りして家のなかに水が貯まる。こういう家はだめだなぁとそのとき体にしみついたんですね。実は空襲で家が焼かれたのは敗戦前で、四国の愛媛県の山のなかに逃げ込んだ時期がありました。そこで目にした村里の景色が、ずっと頭のなかにあります。こういうのを原風景というのでしょうか。茅葺き屋根が立ち並ぶその景観は、今でもはっきりと心に残っています。

古民家を深く知ることができたのは、今から30年くらい前のこと。東北地方を旅行したとき、いたんでボロボロになった茅葺き屋根の集落を目にしてから病みつきになってしまい、茅葺きを見るためだけに旅したりしていました。そして今から21年前、たまたま通りかかった栃木県日光のある村で人の住んでいない茅葺き民家を見つけ、なんとか譲ってもらうことになったんです。屋根裏にあがってみると、大黒柱の上部に文化何年と書いてある。文化年間といえば今から200年も前の江戸時代。そこで、戦前からそのままだった傷んだ屋根を50年ぶりに葺き替え、週末だけ住むことにしたのです。すると、茅葺き屋根に対する憧れというのは、表面的なものでしかないんだということがわかってきた。「茅葺き屋根の家は、冬あたたかくて夏涼しい」といわれますが、これは間違い。夏は確かに涼しい。ショートパンツにTシャツで昼寝していると風邪を引きそうになるくらい。でも冬は、特に日光などでは凍えそうになる。屋根はすかすかだし、木枯らしが吹けば風が家のなかを通っていく。喉が渇いたときに飲むための水差しを枕元に置いておくと、朝には凍っているんだから。今、高気密住宅というのがありますが、その対極。超低気密の家ですよ(笑)。自分で住んでみてよくわかったのですが、民家というのはいくら手をかけてもなかなか寒さから逃れられない。昔から古民家に住んでいる人は、今なおそういった苦労が絶えないんです。だから古い民家に住んでいる人達はみんないいますよ。古い家を壊して新築にしたいって。最近では、一般の人の関心の高まりを反映して、古民家がテレビや雑誌でとりあげられるようになりましたが、こういったマイナス面も含めて、本当の意味での古民家の生活というものを知ってほしいと思います。憧れだけでは、古民家暮らしは長続きしないでしょう。

ただ、経験のある人が工夫をこらして性能を高めるよう手を加えれば、無理なく快適な生活が送れるようになります。でもお金かかるでしょうねと、これもみなさんよくいわれます。正直いって再生には新築よりもお金がかかる場合があります。ですから、そういうお客さんが来たときは、まず家を調査して、残すに値する民家だと判断したときは、もう説得するしかない。ここにある部材は、一度壊したらもう二度と復元することができない宝物なんですよって。というのも、古い民家というのは、建てるまでに信じられないような時間をかけているのです。そろそろ家を建て替えようかなと思ったとき、まず何をするか。山で木を伐るのです。倒した木は、枝葉を落とし皮をはいで山にねかせる。実際に住みはじめるまでに10年から15年はかけているのですが、その大半が木材の乾燥期間。こうして丁寧に乾燥させた木は、反りやひび割れのない頑丈な材料になります。さらに柱や梁になってから50年から100年を経れば、いっそう強度を増します。現在は流通が早くなっているので、業界用語でAD(Air Dry=空気で自然に乾かすこと)といわれる乾燥方法でも数ヵ月から1年かけるのがやっと。もしくはKD(Kiln dry=人工的に窯で乾燥させること)や、伐採したばかりの生の木を使うこともあるはずです。ですから古民家に使われているのは、今となってはお金を出しても買えない大変貴重な材料だといえるのです。材料以外にも、古民家には優れた点がたくさんあります。夏は分厚い屋根が太陽熱を遮ってくれる。風通しがいい。天井が高い。しかし、現代生活に合わない点も多くあります。冬はすきま風が入るし、お風呂や台所もたいてい北側にあって寒くて使い勝手がよくない。一般的に廊下がなく障子や襖で仕切っているだけなのでプライバシーが守れない。土間と上がり框(かまち)の段差が大きい。押入れがない。私が民家を再生するときは、こういった生活の不便を解消し、これからその家にお嫁に来る人のため、今後何十年も住み続けていくために、現代の感覚にマッチした間取りの再構成を考えます。台所やお風呂場の位置をガラリと変えるような大改造です。私の再生手法は、文化財のように昔のままを忠実に再現するものではありません。それは住む人にとって便利な家にはならないでしょう。(そういう仕事は文化庁におまかせしておけばいいと思っています。)

私は、木造の新築住宅も手がけているのですが、その設計には古民家のよいところをできるだけ取り入れています。特に今は、火事になったときに火傷をしないで死ぬ人がいる時代です。ウレタンやビニールクロスなど、燃えると有毒ガスを発生する建材を多く使うため、顔や体はきれいなままなのに、ガスを吸って亡くなる人が多いのです。そんなことがないよう、私はできるだけ自然の素材を使うようにしています。新建材や石油化学製品は使わない。民家再生もいいものだから手を加えて100年生かしましょう。新築と再生の2つは矛盾しないものだと考えています」

【雑誌『古民家スタイル』第7号 `07年3月刊「過去を未来につなぐ仕事人インタビュー 第2回「(古民家を蘇らせる人)悠久の時を経てきた民家をなんとか残したい」を一部補筆して再録」 對馬英治】

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